論文リスト2005(平成17)年度
■査読付論文(パスワード必要)
Journal of the Eastern Asia Society for Transportation Studies(Queen Sirikit Convention Center, Bangkok, Thailand)
- Hirokazu KATO, Naoki SHIBAHARA, Motohiro OSADA, Yoshitsugu HAYASHI: A LIFE CYCLE ASSESSMENT FOR EVALUATING ENVIRONMENTAL IMPACTS OF INTER-REGIONAL HIGH-SPEED MASS TRANSIT PROJECTS, Journal of the Eastern Asia Society for Transportation Studies, Vol.6, pp.3211-3224, 2005.9.[PDF]
- Hirokazu KATO, Yoshitsugu HAYASHI, Kentaro JIMBO: A FRAMEWORK FOR BENCHMARKING ENVIRONMENTAL SUSTAINABILITY OF TRANSPORT IN ASIAN MEGA-CITIES, Journal of the Eastern Asia Society for Transportation Studies, Vol.6, pp.3241-3249, 2005.9.[PDF]
- Noriyasu KACHI, Hirokazu KATO, Yoshitsugu HAYASHI, John BLACK: MAKING CITIES MORE COMPACT BY IMPROVING TRANSPORT AND AMENITY AND REDUCING HAZARD RISK, Journal of the Eastern Asia Society for Transportation Studies, Vol.6, pp.3819- 3834, 2005.9.[PDF]
- Pelin ALPKOKIN, Yoshitsugu HAYASHI, John BLACK, Haluk GERCEK: POLYCENTRIC EMPLOYMENT GROWTH AND IMPACTS ON URBAN COMMUTING PATTERNS: CASE STUDY OF ISTANBUL, Journal of the Eastern Asia Society for Transportation Studies, Vol.6, pp.3835- 3850, 2005.9.[PDF]
土木情報システム論文集
- 杉原健一,林良嗣:GIS上の水路中心線からの3次元水路モデルの自動生成,土木情報利用技術論文集,Vol.14,pp.25-32,2005.10.[PDF]
■国際会議論文(パスワード不要)
Proceedings of the 9th International Conference on Computers in Urban Planning and Urban Management
- Jhon BLACK, Yoshitsugu HAYASHI:TRANSDISCIPLINARY FRAMEWORK: CHALLENGES IN MODELLING THE SUSTAINABLE CITY, Proceedings of the 9th International Conference on Computers in Urban Planning and Urban Management, University College London, PAPER280, pp.1-11, 2005.6. [PDF]
The 9th International Conference of Computers in Urban Planning and Urban Management(University College London, London, UK)
- Pelin ALPKOKIN, Charles CHEUNG, John BLACK. Yoshitsugu HAYASHI: THE DYNAMICS OF EMPLOYMENT SUB-CENTRE FORMATION IN CITIES Of DEVELOPING COUNTRIES ANALYTICAL FRAMEWORK FOR POLICY ASSESSMENT, Proceedings of the 9th International Computers in Urban Planning and Urban Management Conference, Paper 139, 2005.11.[PDF]
- John BLACK, Yoshitsugu HAYASHI, TRANS-DISCIPLINARY FRAMEWORK: CHALLENGES IN MODELLING THE SUSTAINABLE CITY, Proceedings of the 9th International Computers in Urban Planning and Urban Management Conference, Paper 280, 2005.11. [PDF]
- Noriyasu Kachi, John Black, Takaaki Kato, Yoshitsugu Hayashi: DESIGN OF A SPATIAL INFORMATION SYSTEM FOR ZONING DECISION IN THE PLANNED RETREAT AND RE-CONCENTRATION OF THE CITIES Proceedings of the 9th International Computers in Urban Planning and Urban Management Conference, 2005.11.
- Yasuo TOMITA, Yoshitugu HAYASHI, Kenji DOI: BACKCASTING ANALYSIS OF LOCATIONAL INTERACTIONS BETWEEN BUSINESS SECTORS, Proceedings of the 9th International Computers in Urban Planning and Urban Management Conference, Paper 314, 2005.11. [PDF]
- Kenichi Sugihara, Yoshitugu HAYASHI, 3-D BUILDING MODEL AUTOMATICALLY GENERATED FROM BUILDING CONTOUR PARTITIONED, Proceedings of the 9th International Computers in Urban Planning and Urban Management Conference, Paper 386, 2005.11. [PDF]
■自由投稿論文(パスワード不要)
第31回土木計画学研究発表会(春大会)(広島大学,広島県東広島市)
- 長田基広,渡辺由紀子,柴原尚希,加藤博和:LCAを適用した中量旅客輸送システムの環境負荷評価,土木計画学研究・講演集,Vol.31,CD-ROM,2005.6. [PDF]
- 加知範康,大島茂,加藤博和,林良嗣:余命換算型の生活環境質指標を用いた居住地評価モデルの構築,土木計画学研究・講演集,Vol.31,CD-ROM,2005.6. [PDF]
- 加藤博和:なぜ鉄道廃止代替バスは乗客を減らすのか?−その検討プロセスが抱える問題に関する一考察−,土木計画学研究・講演集,Vol.31,CD-ROM,2005.6. [PDF]
- 福本雅之,加藤博和:役割分担に着目した地域公共交通運営方式の分類と各方式の有効性検討,土木計画学研究・講演集,Vol.31,CD-ROM,2005.6. [PDF]
- 福本雅之,加藤博和:適材適所となる少需要乗合交通サービス提供に関する基礎的検討,土木計画学研究・講演集,Vol.31,CD-ROM,2005.6. [PDF]
- Pelin ALPKOKIN, Hirokazu KATO, Takuji OKASHITA: MODELLING BUSINESS LOCATION FOR THE MULTICENTRIC STRUCTURE:THE CASE OF ISTANBUL,土木計画学研究・講演集,Vol.31,CD-ROM,2005.6. [PDF]
第13回地球環境シンポジウム(北海道大学,札幌市北区)
- 加知範康,加藤博和,林良嗣:Social Hazard概念に基づく気候変動に対する都市システムの脆弱性評価,第13回地球環境シンポジウム講演集,pp.19-24,2005.7.[PDF]
環境科学会2005年会(名古屋大学,名古屋市千種区)
- 森部総一,佐野充,加藤博和:ライフサイクルコスト及び環境負荷による一般廃棄物処理システムにおける生ゴミ処理方法の検討,環境科学会2005年会講演要旨集,pp.48-49,2005.9.[PDF]
- 加知範康,加藤博和,林良嗣:余命指標QALYの居住地環境評価への適用,環境科学会2005年会講演要旨集,pp.74-75,2005.9.[PDF]
日本計画行政学会第28回全国大会(名古屋産業大学,愛知県尾張旭市)
- 浅井牧絵,荒木裕子,林良嗣,加藤博和:都市ストック化に対する住民意識の評価,日本計画行政学会第28回全国大会研究報告要旨集,pp.146-149,2005.9.[PDF]
- 加知範康,加藤博和,林良嗣:生活環境質指標による居住地評価と立地状況との関係分析,日本計画行政学会第28回全国大会研究報告要旨集,pp.150-153,2005.9.[PDF]
第1回日本LCA学会研究発表会(産業技術総合研究所,茨城県つくば市)
- 長田基広,柴原尚希,加藤博和:中量旅客輸送機関導入へのLCA適用,第1回日本LCA学会研究発表会講演要旨集,pp.88-90,2005.12.[PDF]
- 渡辺由紀子,長田基広,加藤博和:波及効果を考慮したLRT システム導入の環境負荷評価,第1回日本LCA学会研究発表会講演要旨集,pp.90-92,2005.12.[PDF]
- 加藤博和,金原宏:製品の流通形態が環境に与える影響のライフサイクルアセスメント〜清涼飲料水容器の事例〜,第1回日本LCA学会研究発表会講演要旨集,pp.96-97,2005.12.[PDF]
- 柴原尚希,加藤博和:インフラLCAにおける時間軸考慮のためのDiscount Rate 法の提案,第1回日本LCA学会研究発表会講演要旨集,pp.286-287,2005.12.[PDF]
第32回土木計画学研究発表会(秋大会)(宮崎大学,宮崎県宮崎市)
- Pelin ALPKOKIN, Hirokazu KATO, Yoshitsugu HAYASHI, Kazuhiro SHIMIZU:ANALYZING URBAN DYNAMICS IN MULTI-CENTRIC CITIES: THE CASE OF ISTANBUL,土木計画学研究・講演集,Vol.32,CD-ROM,2005.12. [PDF]
- 岑貴志,加知範康,大島茂,加藤博和,林良嗣:主要施設の配置を考慮した都市内アクセシビリティ分布の評価,土木計画学研究・講演集,Vol.32,CD-ROM,2005.12. [PDF]
- 竹下博之,小森俊文,加藤博和:近距離高速バスを活用した鉄軌道空白地域の利便性向上に関する基礎的研究,土木計画学研究・講演集,Vol.32,CD-ROM,2005.12. [PDF]
- 清水一大,加藤博和,福本雅之,竹下博之:中央走行方式バスシステム導入による効果の事後評価,土木計画学研究・講演集,Vol.32,CD-ROM,2005.12. [PDF]
- 加藤博和,福本雅之:地域公共交通サービスの運営からみた日本の道路運送関連制度の問題点,土木計画学研究・講演集,Vol.32,CD-ROM,2005.12. [PDF]
平成17年度土木学会中部支部研究発表会(岐阜大学,岐阜県岐阜市)
- 尾形直樹,加藤博和,岑貴志:地方都市における鉄軌道廃線の短期的影響の実証分析〜岐阜600V線区の例〜,平成17年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,pp.331-332,2006.3. [PDF]
- 福本雅之,加藤博和:地域公共交通の運営方式に関する適材適所の検討,平成17年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,pp.343-344,2006.3. [PDF]
- 竹下博之,加藤博和,林良嗣:空間占有に着目した交通機関の性能評価手法に関する研究,平成17年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,pp.379-380,2006.3. [PDF]
- 後藤直紀,加藤博和:LCA手法を適用したIT導入による環境負荷削減可能性の検討,平成17年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,pp.381-382,2006.3. [PDF]
- 中條将史,加藤博和:技術革新と地域特性との整合性を考慮した運輸部門でのCO2削減シナリオに関する検討,平成17年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,pp.383-384,2006.3. [PDF]
- 森田絋圭,森杉雅史,加藤博和,林良嗣:人口減少時代の日本における市区町村レベルでの持続可能性評価指標の提案,平成17年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,pp.389-390,2006.3. [PDF]
- 山本哲平,高木拓実,森杉雅史,林良嗣:少子高齢化進展が大都市の生活環境質に与える影響の定量評価,平成17年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,pp.397-398,2006.3. [PDF]
- 亀谷哲郎,加藤博和,戸川卓哉:商業活動のダイナリズムに着目した商業施設立地モデルの構築,平成17年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,pp.401-402,2006.3. [PDF]
- 田口真木,林良嗣,森杉雅史,加藤博和,戸川卓哉:農地転用メカニズムのモデル化による都市スプロール現象の再現,平成17年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,pp.403-404,2006.3. [PDF]
- 高木拓実,加知範康,林良嗣,加藤博和,森杉雅史:少子高齢化時代における都市のスプロールと市街地維持コストの関係分析,平成17年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,pp.405-406,2006.3. [PDF]
- 森部総一,森杉雅史,加藤博和:世代会計的手法を適用した紙資源カスケードサイクルにおける資源フローと経済性に関する分析,平成17年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,pp.615-616,2006.3. [PDF]
■著書(パスワード必要)
なし
■その他(パスワード必要)
地域づくり
- 加藤博和:自治体の魅力向上につながる地域公共交通戦略を−市町村合併時代における地域公共交通のあり方−,月刊地域づくり(財団法人地域活性化センター発行),第192号,pp.4-7,2005.6.[PDF]
土木学会誌
- 林良嗣:都市の形と国土学‐21世紀は,スプロール郊外からの計画的撤退の時代‐,土木学会誌,Vol.90 No.6,pp.27-28,2005.6.[PDF]
中心市街地への居住回復に向けた戦略対応と新しい都市の価値基準に関する調査報告書
- 林良嗣:21世紀はスプロール郊外からの計画的撤退の時代−短期経済対策に終始した戦後の国家経営からの決別−,中心市街地への居住回復に向けた戦略対応と新しい都市の価値基準に関する調査報告書第4章,pp.1-19,2005.7.[PDF]
環境科学会誌
- 加藤博和,田渕六郎:[特集:環境科学シンポジウム2005]「持続性学」としての環境問題への理解と取り組み−私たちは人間生活と環境の未来を構想できるのか?−,環境科学会誌,Vol.19 No.2,pp.123-125,2006.3. [PDF]
名古屋大学大学院環境学研究科持続性学プロジェクト
- 林良嗣:「持続性学」としての環境問題への理解と取り組み,名古屋大学大学院環境学研究科持続性学プロジェクト資料,pp.85-86,2005. [PDF]
■学位論文
- 博士論文
- Pelin ALPKOKIN:ANALYZING URBAN DYNAMICS AND BUSINESS LOCATIONS OF POLY-CENTRIC CITIES: A CASE STUDY OF ISTANBUL
(主査:林良嗣,副査:森川高行,奥田隆明,加藤博和,取得日:2006年3月27日)
多極型構造都市における,土地利用交通分析の手法は,一極集中型都市のそれと異なり,複雑な様相を呈する.しかしながら,発展途上国において多極型都市を対象とした既往研究は不十分であることから,成長を続けるこれらの都市が今後も持続的な発展を遂げるために,必要となる政策立案に示唆を与える研究が必要である.
このような問題意識に立ち,本研究は,発展途上国の多極型構造都市を分析する一般的な枠組みを提案した上で,実証モデルを用いて分析し,シナリオ別の政策の効果を比較検討するものである.
第1章「序論」では,本研究の背景を述べた後,多極型都市の分析の必要性と意義について述べている.
第2章「既往研究のレビュー」においては,多極型都市に関する既往研究のレビューを行っている.その結果は以下のようにまとめられる.
@第二次大戦後のアメリカ合衆国の大都市の一部では,工業化による経済発展と人口増加により,居住者が都心部から郊外部へと移住することに伴う都市構造の分散化が見られるようになったが,この過程で業務立地が住宅立地と交通パターンに与えた影響を分析する枠組みは整備されていない.また,アメリカ合衆国と同様の都市形態の多極化の動きは,アジアやアフリカの発展途上国の大都市でも見られるが,発展途上国の都市を対象とした研究は存在していない.
A1980年代以降,多極型都市構造の研究が進むにつれて,その立地を分析するには,一極集中型都市と同様の立地モデルを用いることは不適切であるという問題が多くの研究者の共通意識となった.この問題意識に基づいて,多極型都市構造の雇用分布と副都心形成を説明するための,理論モデルと実証モデルが提案されるようになった.しかし,理論モデルの開発は未だ不十分な状況にあり,実証モデルについても,その有効性が充分に検証されているとは言えない.
B一極集中型都市に関する土地利用交通政策の研究や事例は多く存在するものの,多極型都市における土地利用交通政策に関する研究はほとんどなく,事例も理論的に行われておらず,経験的に行われているに過ぎない.
このような既往研究の問題点を踏まえた上で,第3章で分析の枠組みを提案し,第4章で枠組みを対象都市に適用し,第5章で業務立地モデルを作成し,第6章で政策立案,第7章に結論を述べた.
第3章「多極型構造都市分析枠組みの導入」では,第一に多極型都市構造の変遷を分析するための一般化された枠組みを構築した.この枠組みにおいては,対象都市内の地区をその雇用密度により4つのクラスターに分類した.雇用が最も高い地域をクラスターTとし,U,Vと徐々に低密となり,クラスターWが最も低密な地域である.第二に,副都心の業務立地の変遷によって交通やトリップ特性,住宅立地選好がどう変化するかを把握するための分析手法を提案すること,を行った.
本研究で提案した枠組みは包括的なものであり,データ取得に制限がある場合でも分析が可能であることから,他の多極型都市にもこの枠組みを適用することが可能である.したがって都市間の比較研究を実施するにあたっても,有効と言える.
続いて第4章「イスタンブールの多極化の分析」では,提案した枠組みを対象都市に適用して分析を行った.本研究の対象都市は,発展途上国であるトルコ共和国のイスタンブールである.対象都市に1985年と1997年のデータを用いて分析を行った.
対象都市での分析によって得られた結果は以下の通りである.
@旧都心であるCBD(中央業務地区)は,その魅力をある程度は保ったものの,雇用のシェアを一部失った.これは北アメリカの都市の状況と類似している.また,実際の雇用増加は,1985年や1997年にクラスターUやVであった発展段階の副都心,すなわちCBDの外縁で起きていたことが明らかとなった.
A副都心化により,CBDと副都心とでは通勤パターンに多少の違いが出るため,それぞれの雇用クラスターすべてから地理的に分散するように代表的な10ゾーンを選定し,各クラスターの通勤トリップ時間と機関分担率,アクセシビリティを個別に算出したところ,朝ピーク時の全体の平均通勤所要時間は,欧米の都市では増加しているのとは対照的に,イスタンブールでは12年間で12分短縮した.この短縮の理由は以下に示す2つの原因によるものである.1つは,第2ボスポラス海峡橋と環状道路の完成であり,もう1つは,労働者の住居が勤務地の近隣に立地するという多極型都市の性質である.また,更なる分析により,いくつかの副都心においては,遠くの居住地から通勤者を引き寄せるだけでなく,近くの居住地からも多くの通勤者を引き寄せているということが明らかになった.
B先ほど選定したゾーンへの通勤の機関分担率の分析では,イスタンブールはアメリカの都市とは異なり,公共交通機関の分担率はどの地域も一様,またはCBDに通勤するトリップの場合は副都心に比べわずかに高いことがわかった.これは開発の進む副都心において,バスサービスの向上が広範な都市圏公共交通ネットワークを形成した結果であると考えられる.
C都市内のアクセシビリティについては,自動車交通と公共交通のサービスレベルそれぞれについての変動を捉えた方がよいことから,別々に算出した.イスタンブールにおいて1985年と1997年において算出した2つのアクセシビリティを比較したところ,中心地域におけるアクセシビリティはわずかな変化に留まったのに対し,高速道路の建設やバスネットワークの拡張を行った他の地域ではアクセシビリティが大きく上昇し,副都心における交通利便性向上に貢献していたことが明らかとなった.
第5章「イスタンブールに適用可能な業務立地モデルの提案と検証」では,イスタンブールへの枠組みの適用結果に基づき,1985年から1997年の間に発生したクラスター型都市形成のメカニズムを説明するための実証モデルとして離散選択モデルを適用した.なお,離散選択モデルの作成にあたっては,1985年の雇用密度を用いて,5つのゾーンに分類した.このとき,既往研究の知見を参考にして,アクセシビリティと土地不足が都市形成にどう影響するかを明らかにするように説明変数を決定した.高密度地区の用地不足,関連企業が近くに集まることによる集積効果,高速道路の自動車アクセシビリティと,公共交通機関のアクセシビリティ,土地利用規制の有無,といった説明変数の検定をおこなった結果は統計上有意であった.有意性が最も高かったのは,高密度地区の用地不足と高速道路の自動車アクセシビリティであった.モデルによる立地選択の再現性については,高密度な都心地域についてはあまり正確ではなかったが,中密度な開発途中の副都心地域に関しては高い的中率を示した.
- 修士論文
- 荒木裕子:世帯構成の変化と都市空間における世帯分布変化の関連性に関する研究
(主査:林良嗣,副査:奥田隆明,星野光雄)
都市は人口移動のサイクルを有しており,特に少子高齢化社会が進行する現代日本において,この関係を考慮することは都市の将来を検討する上で重要である.本論文ではまず,日本の大都市圏における都市のライフサイクル仮説の妥当性を検討し,その上で,人口分布の変化を時系列データを用いて概観する.人口の社会変動について名古屋都市圏を対象とした分析を行った結果,世帯の住替え行動と社会変動に密接な関係があることが明らかにされ,住替え行動の分析が人口移動予測を行う際,有効であることが示唆される.そこで,住替えに着目した人口移動のモデルを構築した.
- 呉静:中国における中低所得層向け住宅政策に関する研究
(主査:林良嗣,副査:森川高行,川崎浩司)
中国における中低所得層が住宅取得ための政策支援の有り方を検討している.まず,人権,公正,秩序の角度から,中低所得層向け住宅政策制定の原因を検討してみた.次に,自由市場経済,混合市場経済,社会市場経済,行政主導型市場経済の代表国を選んで,違う経済形態の国における住宅政策を考察した.これら国の政策と中国の現行政策との比較によって,中国における政策体系の欠点を明らかにしている.最後に,今後中国で実施すべき財政・金融政策の有り方が示された.
- 尾形直樹:地方都市において鉄軌道が廃線に至る構造とその短期的影響の実証分析
(主査:加藤博和,副査:森川高行,市川康明)
近年,モータリゼーション進展や人口減少の影響を受け,収益悪化に陥っていた地方鉄軌道の廃線が相次いでいる.そこで本研究では,都市施設と人口の近接性を評価するアクセシビリティ指標を定義し,鉄軌道廃止が都市に及ぼす影響の定量的把握を行う.まず,これまで廃線を繰り返しながら現在の都市構造に至った変遷の描写,そして近年の廃線が現在の都市に与えた影響をアクセシビリティ指標によって検証する.さらに廃線後の新たな公共交通システムとしてLRT の導入シナリオを設定し,その効果を定量評価する.以上から,鉄軌道の廃止は郊外部の利公共交通便性を大きく低下させること,将来的には既存のバス網を生かした市街地へのLRT 導入が有効であることを示した.
- 長田基広:LCAを適用した旅客輸送機関の環境持続性評価の方法論
(主査:加藤博和,副査:森川高行,山田健太郎)
本研究では,旅客輸送機関による環境負荷へのLCA適用にあたっての推計値の信頼性と,異時点で発生した環境負荷の差異について検討を行うことを目的とする.ライフサイクル環境負荷への寄与率が大きいインフラ建設や車両走行を対象とし,インフラ構造,走行条件,環境負荷原単位の設定の違いが推計結果の信頼性に与える影響を分析する.また,技術革新による環境負荷変化量やCO2の排出時点の相違による環境影響の違いに着目し,Discount Rate法を適用して将来発生する環境負荷の現在価値化を行っている.その結果,インフラ建設に係わる環境負荷の誤差の詳細な検討が重要であることが示されている.
- 亀谷哲郎:商業活動のダイナミズムを考慮した商業施設立地モデルの構築
(主査:加藤博和,副査:原田昌幸,日比野高士)
都市の魅力向上に商業が果たす役割は大きい.しかし,これまでのまちづくり三法の下で行われてきた商業立地政策はそれをコントロールできておらず,大規模小売店舗の郊外での乱立や中心市街地空洞化を止めることができなかった.そこで,消費者のニーズに対応し商業活力を生かしたまちづくりを可能とする商業立地政策への転換が求められている.本研究では,消費者のニーズや商業業態トレンドを取り入れた商業施設立地モデルを構築し,各種商業立地施策を検討するために商業施設が立地する場所をシミュレーションによって再現するモデルシステムを構築している.このモデルを用いた結果,店舗までの近接性と,商業業態トレンドが立地場所を決定する要因として有力であることが証明され,店舗立地挙動の特徴を再現することができた.
- 木拓実:少子高齢化時代における都市のスプロールと市街地維持コストの関係分析
(主査:林良嗣,副査:山本俊行,星野光雄)
本研究では,都市空間構造が市街地維持コストに及ぼす影響メカニズムを定式化し,都市域コントロールに伴うコスト削減可能性を分析することを目的とする.まず,都市を空間的に細分化したメッシュの単位で推計可能な市街地維持コスト推計モデルを構築する.そして,実都市を対象にモデルを適用するとともに,コーホート要因法を用いて将来の属性別人口分布を予測し,市街地維持コスト分布とのマッチングを分析する.その結果,都市全域で市街地維持コストが増加するとともに,1 人当たりコストのメッシュ間格差が拡大していくことが示される.さらに,都市域のコンパクト化によって削減可能な市街地維持コストを推計し,施策の効果を確認した.
- 田口真木:農地転用メカニズムのモデル化による都市スプロール現象の再現
(主査:林良嗣,副査:奥田隆明,松原輝男)
近年,コンパクトシティ論を初めとした都市スプロール防止策の研究が進んでいるが,無秩序な市街化に対し土地を供給する農地転用の関わりに着目し,スプロール抑制へと繋げる発想を持った研究は少ない.本研究では,農地が転用される要因をマクロレベルとミクロレベルに分けて整理する.マクロレベルでは重回帰モデルで定式化し,その結果を受け,ミクロレベルにおいて非集計ロジットモデルを組み込んだマイクロシミュレーションを構築している.さらに,実際に地方都市を対象とした農地転用予測シミュレーションを試みた結果,スプロール現象の抑制に線引き制度の活用や生産調整面積の見直しが有効であることを示している.
- 竹下博之:空間占有に着目した交通機関の性能評価手法に関する研究
(主査:加藤博和,副査:森川高行,井村秀文)
性能の高い交通体系を構築するためには個々の交通機関の空間再配分が必要である.本研究では,各交通機関が占有する空間に着目した性能評価手法を構築する.そのために,各交通機関がどの程度空間的・時間的に占有しているかを表す指標である時空間占有量を定式化し,単位あたりの時空間占有量で対象の交通機関が発揮しうる輸送力や速度,すなわち一種の空間生産性で比較・評価することを試みる.その結果,道路上を占有する公共交通機関は一定量の需要が見込まれない限り占有が許容し得ないことなどが明らかとなった.
- 中條将史:技術革新と地域特性との整合性を考慮した運輸部門でのCO2削減シナリオに関する検討
本研究では,日本における中長期のCO2削減目標達成を意図した,技術革新トレンドと地域特性を考慮した適材適所のEST(Environmentally Sustainable Transport)政策に必要な基礎データを示すことを目的とする.特に増加の著しい乗用車を対象に2020,2050年のCO2排出量を市区町村別に予測したところ,人口減少に起因し乗用車保有台数が減少するものの,同時に総トリップ長が増加しCO2排出量は増加することが示される.次にあらかじめ設定した全国の削減目標量を各市区町村に配分する.この際,技術施策による全国的な進展による削減効果を見積もり,それで補えない各類型別の削減量を交通施策によって補うことを想定する.地域特性によって市区町村を類型化し,各類型別交通施策の方向性の検討を行なう.
- 福本雅之:地域公共交通の運営方式に関する適材適所の検討−財政悪化と住民参画という課題を前提として−
(主査:加藤博和,副査:奥田隆明,山田健太郎)
本研究では,財政悪化と少子高齢化を迎えた日本の地域公共交通を維持するためのスキームとして,従来の事業採算や公的負担による運営方式ではなく,受益者が主体的に参画し,役割分担を行うことによって,地域のニーズにあった地域公共交通を自ら創り出す「地域参画型公共交通運営方式」の有効性を検討する.そのために,各地で取り組まれている先行事例を主体間の役割分担に着目して類型化した上で,地域の主体が参画することの利点について,地域特性と資源という観点から考察を行っている.また,地域公共交通について経済学・組織論の観点から分析し,「地域参画型公共交通運営方式」を実現するために,地域性と目的性の両面に依拠した組織化が必要であることを明らかにしている.
- 森部総一:世代会計的手法を適用した紙資源カスケードリサイクルにおける資源フローと経済性に関する分析
(主査:加藤博和,副査:市川康明,山田健太郎)
近年の一連のリサイクル関連法整備はリサイクルを大きく進める効果を得たが,一方で,その施策は市場の価格調整機能に依存しないため,需給ギャップを生じている可能性がある.そこで,本研究では代表的なリサイクル産業である紙産業のカスケードリサイクルシステムを対象として資源の実質価値と市場価格の乖離現象を分析することを目的とした.まず対象システムに対し,精緻な輸送モデルを組み込んだ静学的なリサイクル事業評価モデルを構築した.このモデルを用いて利益・再資源化量を最大化したシミュレーションを行った結果,現状より利益率・再資源化率が向上した.次に,資源の実質価値と価格の関係をバージンと古紙という二世代に分けて世代会計的に時系列分析した結果,需給ギャップによる価格と価値のゆがみが生じていることが確認された.
- 卒業論文
- 後藤直紀:IT導入による環境負荷削減可能性のLCAを用いた検討
(主査:加藤博和,副査:井村秀文)
ITサービスの導入が,交通活動を代替することで,環境負荷を削減する可能性を持つことが考えられる.本研究では,ITサービスの例として,テレビ会議の導入により,出張会議を代替する場合の環境負荷削減可能性をLCAを用いて検討する.推計にあたり,テレビ会議導入によって生じる余剰時間の行動により,環境負荷を増大させてしまうリバウンド効果も評価対象とするが,それは多種多様かつ不確実であるため,その評価対象範囲の設定指針も併せて示す.分析の結果,東京−大阪間のような長距離出張や,近距離であっても自動車を使用した出張は,テレビ会議を利用したほうが環境負荷が小さくなることを明らかにしている.また,テレビ会議の大幅普及に伴う新幹線の運行本数の変化が環境負荷に及ぼす影響も推計している.
- 森田紘圭:人口減少時代の日本における市区町村の持続可能性評価指標の提案
(主査:林良嗣,副査:森川高行)
本研究では,少子高齢化と人口減少時代に突入した日本において各市区町村が持続可能であるか否かを評価するために,人口,環境,財政の将来推計をベースとした持続可能性評価指標を提案し,実際の市区町村を対象として,今後それらがどのように変化していくかを予測する.その結果,現状(BAU)のまま推移すれば,日本全体で社会性,財政,環境いずれの要素においても低下が見られ,中小都市では特に社会,財政面,大都市においては環境面での持続可能性の低下が大きいことがわかった.したがって,今後の人口動態に伴って,コンパクト化政策など都市構造の改変に着手する必要があることが結論付けられる.
- 山本哲平:少子高齢化進展が大都市住民の生活環境質に与える影響の定量評価
(主査:林良嗣,副査:山本俊行)
本研究は,大都市において,現状の拡散な都市空間構造のままで少子高齢化が進展することで,市内各地区の居住による生活環境質にどのような影響を与えるかを定量的に明らかにすることを目的としている.そのために,実際の大都市において,現在の人口分布と,人口コーホートで推計した将来の人口分布それぞれでの住民の生活環境質分布を,年齢階層別の価値観とメッシュ単位の定量指標をあわせたQuality Adjusted Life Year(QALY)を用いて算出・比較するとともに,その変化がどのような要因に大きな影響を受けているかを分析する.その結果,大都市でも少子高齢化に向けて,住民の生活環境質の維持・向上のための施策が必要になることが明らかにされる.