論文リスト2003(平成15)年度
■査読付論文(パスワード必要)
Built Environment
- YOSHITSUGU HAYASHI, YASUO TOMITA: The Sustainable City: Transport and Spatial Development, Built Environment, Vol.29 No.1, pp.5-7, 2003.8. [PDF]
- YOSHITSUGU HAYASHI, IKUO SUGIYAMA: Dual strategies for environmental and financial goals of sustainable cities; De-suburbanization and social capitalization, Built Environment, Vol.29 No.1, pp.8-15, 2003.8. [PDF]
- YASUO TOMITA, DAISUKE TERASHIMA, AMIN HAMMAD, YOSHITSUGU HAYASHI: Backcast analysis for realizing sustainable urban form in Nagoya, Built Environment, Vol.29 No.1, pp.16-24, 2003.8. [PDF]
- HIROKAZU KATO, MEI YU, YOSHITSUGU HAYASHI: Proposing social capitalization indices of street blocks for evaluation of urban space quality, Built Environment, Vol.29 No.1, pp.25-35, 2003.8. [PDF]
地理情報システム学会講演論文集
- 杉原健一,林良嗣:ノイズ辺を除去した建物境界線からの3次元建物モデル自動生成,地理情報システム学会講演論文集,Vol.12,pp.497-500,2003.9. [PDF]
Journal of the Eastern Asia Society for Transportation Studies
- R.V.R.Teodoro, H.S.Lidasan, Y.Hayashi: Developing a Transportation Management Organizational Model for Local Government Units in the Philippines, Journal of the Eastern Asia Society for Transportation Studies, Vol.5, pp.3179-3191, 2003.10.
Mitigation and Adaptation Strategies for Global Change
- H.Kato, Y.Hayashi, K. Tanaka: A basic study with feasibility of applying clean development mechanism to the transport projects, Mitigation and Adaptation Strategies for Global Change, Vol.8 No.3, pp.281-291, 2003.12.
European Journal of Transport and Infrastructure Research
- Yoshitsugu Hayashi, Kenji Doi, Masaharu Yagishita, Masako Kuwata: Asian trend, problems and policy practices, European Journal of Transport and Infrastructure Research, Vol.4 No.1, pp.27-45, 2004.1.[PDF]
- Y.Moriguchi, H.Kato: EST case studies and perspectives in Japan, European Journal of Transport and Infrastructure Research, Vol.4 No.1, pp.121-145, 2004.1.
土木学会論文集
- 林良嗣,土井健司,杉山郁夫:生活質の定量化に基づく社会資本整備の評価に関する研究,土木学会論文集,No.751 IV-62,pp.55-70,2004.1. [PDF]
■国際会議論文(パスワード不要)
CUPUM(Computers in Urban Planning and Urban Management) Proceedings of the 8th International Conference(Tohoku University, Janan)
- Kenichi Sugihara: 3-D Urban Model by Automatic Generation and its Application, CUPUM(Computers in Urban Planning and Urban Management) Proceedings of the 8th International Conference, pp.1-11, 2003.5.[PDF]
WCTRS(World Conference on Transport Research Society)SIG1 Meeting(sendai mediatheque, Sendai, Japan)
- Noriyasu KACHI, Yukihiko YASUE, Hirokazu KATO, Yoshitsugu HAYASHI: DEVELOPING "DRAMATIZING METHOD" AS A TOOL FOR EVALUATION OF QUALITY OF LIFE IN CITIES, WCTRS (World Conference on Transport Research Society) SIG1 Meeting, Sendai, 2003.5. [PDF]
- Pelin ALPKOKIN, Yoshitsugu HAYASHI: EXAMINING THE "DUTCH MODEL"FROM THE VIEWPOINT OF LAND USE AND TRANSPORT POLICY FOR SUSTAINABLE URBAN DEVELOPMENT, WCTRS (World Conference on Transport Research Society) SIG1 Meeting, Sendai, 2003.5.[PDF]
ISIE 2003 Post-Conference(Ann Arbor, Michigan, USA)
- Y.Moriguchi, K.Matsuhashi, Y.Kudoh, A.Terazono, Y.Hayashi, M.Yagishita, H.Kato, K.Doi, T.Suzuki, K.Tsuchiya: A nation-wide case study towards Environmentally Sustainable Transportation in Japan, ISIE 2003 Post-Conference, Ann Arbor, 2003.7.
International Geoscience and Remote Sensing Symposium(Toulouse, France)
- Kenichi Sugihara, Yoshitsugu Hayashi: Semi-Automatic Generation of 3-D Building Model by the Integration of CG and GIS, International Geoscience and Remote Sensing Symposium, Vol.6, pp.3919-3921, 2003.7.[PDF]
The 5th International Conference of Eastern Asia Society for Transportation Studies(Fukuoka International Congress Center, Fukuoka, Japan)
- Pelin ALPKOKIN, Yoshitsugu HAYASHI: ISTANBUL TRANSPORTATION MASTER PLAN STUDY TOWARDS MORE INTEGRATED TRANSPORTATIONAND MORE SUSTAINABLE CITY, Proceedings of the 5th Eastern Asia Society for Transportation Studies Conference, Vol.5, pp.1639-1654, 2003.10. [PDF]
■自由投稿論文(パスワード不要)
第27回土木計画学研究発表会(東京大学本郷キャンパス,東京都文京区)
- 丸山貴徳,加藤博和,岩越敦哉:交通社会実験を通したマーケティング活動による交通システム普及の方法論−店舗利用型パーク・アンド・ライドを対象として−,土木計画学研究・講演集,Vol.27,CD-ROM,2003.6. [PDF]
- 高橋宏和,加藤博和,林良嗣:都市活性化のための体育・スポーツ施設の整備・運営方法に関する基礎的研究,土木計画学研究・講演集,Vol.27,CD-ROM,2003.6. [PDF]
- 加藤博和,高須賀大索:規制緩和後の自律的な地域公共交通形成のためのボトムアップ型運営方式に関する研究,土木計画学研究・講演集,Vol.27,CD-ROM,2003.6. [PDF]
第11回地球環境シンポジウム(大宮ソニックシティホール,埼玉県大宮市)
- 田中浩介,加藤博和,林良嗣:運輸交通分野におけるCDMを用いたビジネスモデルの可能性に関する基礎的検討,第11回地球環境シンポジウム講演集,pp.225-230,2003.7.[PDF]
- 栗山和之,崔東海,加藤博和,林良嗣:日本の環境配慮型交通施策導入プロセスにおける問題点の検討,第11回地球環境シンポジウム講演集,pp.259-264,2003.7. [PDF]
土木学会平成15年度全国大会 第58回年次学術講演会(徳島大学,徳島県徳島市)
- 浅井牧絵,林良嗣:都市ストック化の指標化に関する研究,第58回年次学術講演会講演概要集,CD-ROM,部門IV-144,2003.9. [PDF]
- 福田貴之,加藤博和,林良嗣:地方中小都市における都市域拡大が将来の自治体財政に与える影響の分析,第58回年次学術講演会講演概要集,CD-ROM,部門IV-155,2003.9. [PDF]
第31回環境システム研究論文発表会(北九州学術研究都市,北九州市若松区)
- 柴原尚希,加藤博和,狩野弘治:LCAに基づく標準化原単位を用いた鉄軌道システムの環境性能評価手法,第31回環境システム研究論文発表会講演集,pp.167-172,2003.10.[PDF]
- 加知範康,加藤博和,林良嗣:地球温暖化に対する都市システムの適応策検討に関する基礎的研究,第31回環境システム研究論文発表会講演集,pp.399-404,2003.10.[PDF]
- 山根顕,栗山和之,林良嗣,加藤博和:東南アジア途上国における自動車環境対策の実効性に関する基礎的研究,第31回環境システム研究論文発表会講演集,pp.303-308,2003.10.[PDF]
第28回土木計画学研究発表会(豊橋技術大学,愛知県豊橋市)
- 栗山和之,田中浩介,柴原尚希,加藤博和,林良嗣:新規鉄軌道整備のCDM事業成立可能性のLCA手法を用いた検討,土木計画学研究・講演集,Vol.28,CD-ROM,2003.11.[PDF]
- 柴原尚希,加藤博和:LCAを用いた磁気浮上式超高速鉄道整備後のCO2排出量変化予測,土木計画学研究・講演集,Vol.28,CD-ROM,2003.11.[PDF]
- 杉本淳,加藤博和,林良嗣:都市公営交通事業の民営化に関する基礎的研究,土木計画学研究・講演集,Vol.28,CD-ROM,2003.11.[PDF]
- 五十島忠,浅井牧絵,林良嗣,加藤博和:住替えインセンティブを組み込んだ自律型街区再構築スキームの一提案,土木計画学研究・講演集,Vol.28,CD-ROM,2003.11.[PDF]
- Pelin ALPKOKIN, Yoshitsugu HAYASHI, Kazuyuki KURIYAMA: "DUTCH SPATIAL PLANNING MODEL" FOR SUSTAINABLE URBAN DEVELOPMENT,土木計画学研究・講演集,Vol.28,CD-ROM,2003.11.[PDF]
平成15年度土木学会中部支部研究発表会(長野工業高等専門学校,長野県長野市)
- 竹下博之,加藤博和:ガイドウェイバスシステム開業後3年間の状況分析,平成15年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,W-42,pp.347-348,2004.3. [PDF]
- 高木拓実,加知範康,真田健助,林良嗣,加藤博和:都市空間再構築における撤退地域特定のためのGISシステム,平成15年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,W-43,pp.349-350,2004.3.[PDF]
- 真田健助,加知範康,高木拓実,林良嗣,加藤博和:計画的撤退を基調とした都市空間利用の再構成に関する研究,平成15年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,W-44,pp.351-352,2004.3. [PDF]
- 長田基広,柴原尚希,金原宏,加藤博和:LCA手法を用いた中量旅客輸送システムの環境負荷評価,平成15年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,W-50,pp.363-364,2004.3. [PDF]
- 柴原尚希,加藤博和:Social/Dynamic LCA手法の提案−交通システム整備に伴う環境負荷評価を対象として−,平成15年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,W-51,pp.365-366,2004.3. [PDF]
- 金原宏,柴原尚希,加藤博和:インフラ整備に伴う環境負荷評価指標としての「ウッドポイント」の提案,平成15年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,W-95,pp.453-454,2004.3. [PDF]
■著書(パスワード必要)
地球温暖化と日本 第3次報告−自然・人への影響予測−(古今書院)
- 加藤博和:社会基盤施設と社会経済への影響,原沢英夫,西岡秀三編:地球温暖化と日本 第3次報告−自然・人への影響予測−(第6章執筆分担),古今書院,2003.8.
土地バブル経済の法学的課題(江草忠敬)
- 林良嗣:技術に立脚した地下法制の必要性,日本土地法学会編:土地バブル経済の法学的課題(第1部執筆分担),江草忠敬,pp.8-15,2003.10.[PDF]
■その他(パスワード必要)
運輸と経済
- 加藤博和:[論稿] 東海3県における規制緩和直後の路線バス,運輸と経済,Vol.63 No.8,pp.66-77,2003.8.[PDF]
- 金広文,林良嗣,廣畠康裕,奥田隆明:[論稿]成熟経済下での陸上交通整備財源の権限委譲と調整に関する分析‐米・独の国際比較を通して‐,運輸と経済,Vol.64 No.1,pp.56-65,2004.1.[PDF]
運輸政策研究
- 加藤博和,林良嗣:[講座] 都市交通と環境:ケーススタディ−名古屋−,運輸政策研究,Vol.6 No.2,pp.48-55, 2003.8.[PDF]
現代の高等教育
- 林良嗣:国際学術コンソーシアムAC21‐名古屋大学の世界展開‐,現代の高等教育,Vol.455,pp.23-28,2003.12.[PDF]
土木学会誌
- 林良嗣:[学会の動き] 社会的存在としての土木学会への改革策-JSCE2005の理念と実践-,土木学会誌,Vol.89 No.5,pp.77-82,2004.1.[PDF]
国際交通安全学会誌
- 林良嗣:[特集:交通施設と都市景観] 交通施設と都市景観特集にあたって,国際交通安全学会誌,Vol.38 No.4,pp.268-269,2004.2.[PDF]
環境科学会誌
- 加藤博和:交通活動に伴う環境負荷のライフサイクル評価手法,環境科学会誌,Vol.17 No.2,pp.141-145, 2004.3.
■学位論文
- 博士論文
- ユ・メイ:ストック化された都市を実現するための都市計画手法に関する研究
(主査:林良嗣,副査:片木篤,辻本誠,加藤博和,取得日:2004年3月25日)
日本では,戦後高度経済成長に伴い,都市内の公有空間においてはインフラの整備が進んだ一方で,民有地側においては毎年大量に建設されてきた住宅やオフィスビルなどによる無秩序な空間が広く形成され,多くの地区において建物間の調和がなくバラバラな状態にあり,都市景観に大きな悪影響を与えている.その根底には,各々の土地所有者が自由に建物を建てられる都市計画・建築規制の現状がある.
日本では欧米に比べて建物の寿命が極端に短く,建物の建替えが非常に多い.これは物理的要件もさることながら,物理的に使用可能であっても,建物に対するニーズの変化に対応できず,機能的に使用できない状態になってしまうことが大きな理由である.街区全体の建物群ストックでみるとその機能的寿命は建物問の調和がとれていないことからさらに短くなり,個々の建物の建替えを助長してしまっている.一方,ヨーロッパの都市は日本とは逆に,建物間の相互調和性を重視することによって,街区建物群ストックの機能的寿命がより長くなっていると考えられる.経済成熟や少子高齢化という今後の状況を考えると,都市を次世代への資産として「ストック化」していくことは現在の日本における大きな課題である.
日本は過去,都市計画においては,ほとんど市場原理にまかせ,個別建物の短期的利益だけが考えられ,街区ストック化を疎かにしてきたといえる.今後は,利益確保と同時に都市生活の質を持続的に向上することを目的とする建物・街区の形成を考えなければならない.そのために,都市を構成する街区を,「ストック化」の視点で評価し,それを高める施策を検討する必要がある.
ところで,建物はその建設にあたって経済的利益を求められ,その利益と街区ストック化との間にはしばしば相反する関係を有する.
そこで本研究では,美しい街並み,長寿命の建物など別々の言葉で語られ,曖昧であった都市の持続性の概念をストック化という視点から再定義する.そして,ストック化の程度を示す指標とその計測方法を開発し,ストック化の各々の要因がストック化の実現手段としての法制度のどこを改良すべきかを整理して提示する.すなわち,日本の都市を持続性あるものにするための具体的方向性を,「ストック化度」という示す指標体系とその計測する方法を開発するとともに,それに基づいて実現手段としてのどの制度を改良すべきかの関係を見出す方法論を提示することを目的とする.
この研究の目的を達成するため,本論文は以下全7章から構成されている.まず第1章において,本研究を行うに至った背景を明らかにし,研究の目的を述べる.続いて目次にそって論文の構成を説明する.
第2章では,本研究の分析の基本概念である「都市ストック化」という用語の定義を行う.都市のストック化は,単に都市内の建物群の物理的長寿命化を図るのみならず建物間の相互調和性を高めることによって,「社会資産化」(SocialCapitalizationofCity)を図ることでもある.したがって,街区が,将来世代に引き継ぐ都市ストックとして耐えうるかどうかを評価するために,各建物の物理的寿命のみならず,街区全体としてみたときの機能的寿命や環境的持諦性といった評価軸に影響を与える要因を分析することが必要である.そこで,民間建築物およびそれと社会資本の両者によって形づくられた都市空間を対象に,それをストック化の視点で評価するための指標体系「街区ストック化度」を構築する.
また,本研究で提出した都市ストック化の概念と都市持続性概念との関係を分析するために,関連する既往研究を解析する.具体的には,建物の寿命評価や都市空間の寿命評価に関する研究を取り上げ,本研究の位置づけを明確にする.その結果,本研究の特徴として,1)建物や都市空間の「建替サイクル」を物理的耐久性だけではなく,社会的寿命からの視点を加えて検討し,物理的寿命に換算する方法を開発するとともに,2)ストック化の視点から,日本の制度上の問題点を分析し,今後の都市ストック化のための政策提案に必要な問題意識を整理することが見い出される.
第3章では,都市空間を構成する基本単位としての街区に着目し,街区レベルでのストック化施策を検討するための定量的指標としての「ストック化度」を計算するモデルを提案する.
そのために,建物と街区のストック化属性指標から建物の寿命,街区ストック化度までの推計プロセスを設定している.さらに,ストック化度評価項目間の重み付けをAHPアンケート調査によって行っている.このモデルを用いて,名古屋市及び千葉市における3つの対象地区を設定し,街区ストック化度評価の試算を行った.そのために,試算に特定した4つの項目について評価し,それによって3地区の街区ストック化度の試算を行った結果,名古屋市の対象地区における街区ストック化度の平均値は約31年となり,その建物群の平均物理的寿命の約50年に対して,20年ほど低下している.これに対して,計画的に整備された千葉市の対象地区では,街区ストック化度の平均は59.0年となっており,建物の物理寿命と非常に接近値となっている.
第4章では,ストック化に寄与する各属性を高めるために必要となる制度体系を,都市計画法制,建築法制,税・補助金制度,自然環境法制に分けて検討する.そのために,日本の制度に関連する研究をレビューするとともに,都市ストック化の観点から優れた面を有するイギリスやドイツの都市計画関連法体制と日本との比較によって,日本の都市がストック化されていない原因を分析している.
分析の結果を概括すると以下の通りである.イギリス,ドイツにおいては,開発区域以外のすべての国土が開発制限区域となっている.日本では,都市計画区域及び準都市計画区域外には都市計画制限が及ばないことから,スプロール的な開発を許す結果となっている.そのために,土地を使い捨てる傾向が強まり,街区をストック化するインセンティプが生じにくい.日本では,イギリスのLocalPlanやドイツのB-Planのような,建物の設計を含む地区計画制度は存在するものの,義務化されていない.敷地を整序化しても,詳細な地区計画を実施しない限り,建物群としての景観を向上させることにはつながらない.日本では市街化区域における低・未利用地を規制する効力のある制度に乏しく,建物の高さやスカイラインが不揃いである.加えて,日照確保を建物壁面線後退ではなく建物上部の斜線制限によるため,醜い景観が現出する結果となっている.日本の建築規制は,建物単体の安全性からみて極めて厳しいものとなっている反面,建物内部の用途混在,他の建物との景観的調和に関してはイギリス・ドイツより劣っている.敷地統合については種々の優遇策が存在するが,充分に活用されていないのが現状である.私権が強く保護される法制度の下で,敷地が細分化され,住宅立地が遠隔化し,利便性の高い都心地域で住宅地域がオフィスビル等に転換したため,都心における居住機能が衰退し,住環境が悪化した.第5章では,日本の都市における建物の7割以上を占める住宅について,そのストック化阻害要因を考案した上で,ストック化を進めるための「住宅定型化」の必要性について述べる.
イギリスのテラスハウスを定型住宅の例として取り上げ,その普及が進んだ歴史的,制度的理由を分析することによって,日本における住宅定型化の方向性を求めることにした.イギリスの住宅は量的なストックだけでなく都市の中での景観的なストックも実現しており,前者は住宅法により,後者は建築関連法により実現される.イギリスの建築関連法は,日本の都市計画法に当たるタウン・カントリープランニング法と,建築基準法に当たるビルディング・レギュレーションが主である.タウン・カントリープランニングは建物の性能を規定する.すなわち建物の増改築や用途変更あるいは,外観の大嶺模な変更に関しては計画許可を得なければならない.一方ビルディング・レギュレーションは建物内部に持する増改築を規定する.すなわち建物構造や火災時設備や避難経路の変更や用途変更などの場合は同様に建築許可を得る必要がある.
日本の近未来都市住宅の基本的コンセプトは「高密度都市居住が可能な都市」であるべきと考える.中心部では高密度住宅が求められるが,その低層部には物販,飲食,事務所などが混在することも都市の活気を保つ上で役に立つ.中心部以外では必ずしも混在は必要無く,中密度居住で落ちついて快適に暮らせるスタイルも考えられる.
ここで,高密度居住の手法としての(a)高層タワー型住居と(b)中層中庭型住宅,及び中密度居住の手法としての(c)中層板状住宅と(d)タウンハウス住宅の4つを挙げ,その整備手法について述べている.第6章では,街区ストック化度が実際にどのように決まっているかのメカニズムとして,「街区生涯利益最大化仮説」を提示し,それを基づいた街区ストック化度を決定の理論モデルを定式化している.さらに,街区ストック化に対する一般市民の価値認識を貨幣価値として示すために,名古屋市と上海市において,CVM手法を用いた都市ストック化に対する価値意識を調査し,街区ストック化度評価モデルの解釈を試みた.
さらに,CVM調査の結果,人々が住宅に対して持っている割引率の値を求めたところ,名古屋の方が上海よりやや割引率が大きくなった.すなわち,上海が名古屋より将来価値をより大きく評価し,ストック化を重視していることが示されている.
最後に,第7章では,本研究の結論として,都市のストック化を向上するため必要となる社会・緩済・制度面の諸条件をまとめて検討し,研究から得られた成果をまとめ,今後に必要な課題を整理した.
- 修士論文
- 石田洋平:地方都市の魅力向上のための都市商業立地再構築に関する研究
(主査:林良嗣,副査:森川高行,原田昌幸)
本研究では,地方都市の持続性を高めるために必要上可欠な商業活力向上のための都市空間及び商業立地政策の方向性を示すことを目的とする.そこで,商業空間の魅力と商業集積空間の構成要素の関係を把握することにより小売吸引力モデルを構築する.モデルを構築するにあたり,購買行動の目的別に最寄品,買回り品に分けることが重要であることを明らかにした.
- 眞田健助:計画的撤退を基調とした都市空間利用の再構成に関する研究
(主査:林良嗣,副査:原田昌幸,山田健太郎)
本研究では,「撤退」と「再集結」の実施による都市空間利用の再構成を検討するための方法論の構築を目的とする.まず,都市空間利用の評価における基本概念としての‘Social Hazard’と‘Social Value’の考え方を提案し,これらの定量評価に基づく撤退・再集結地域選定法を定式化する.そして,愛知県豊田市を対象に撤退・再集結地域を選定した結果,撤退地域は都市外縁部に,再集結地域は都市中心部に分布していることが示された.さらに,選定結果と現地調査の結果との比較を通じて方法論の妥当性を検討している.
- 柴原尚希:Social/Dynamic LCA手法の提案*交通システム整備に伴う環境負荷評価を対象として*
(主査:加藤博和,副査:森川高行,山田健太郎)
本研究では,鉄軌道システム整備プロジェクトの計画段階に適用可能な,Social/Dynamic LCA の概念に基づく環境負荷評価手法を提案するとともに,環境効率や経済的便益も含めて評価することを目的とする.その際,鉄道構成要素の標準化原単位を用いた簡便なインベントリ分析を行い,そこで算出された5 種類の環境負荷排出量を,被害算定型影響評価手法により貨幣価値に換算している.Social LCA としてELCEL 概念を導入することにより,新規幹線鉄道整備に伴う他交通機関利用減少によるCO2 排出削減効果の検討を行うとともに,Dynamic LCA として技術進歩の考慮を意味する割引率を導入したDiscountRate 法を提案している.さらに,環境効率を用いたルート検討や代替交通機関との比較を行っている.
- 杉本淳:財政的持続性からみた都市公共交通の運営形態に関する評価分析
(主査:加藤博和,副査:森川高行,北川徹哉)
本研究では,財政的な持続可能性の観点から日本における都市公共交通事業が抱える問題点に焦点を当て,その原因を整理する.次に,海外における公営交通事業の改変事例を参考にしながら,日本の都市における今後の公共交通運営形態とそのための組織改革の方向について分析評価する.その結果,競争原理を導入した契約型運営方式が,有効であるものの,法制度等の問題から困難な面があることが示される.また,単に運営形態を変更するだけでは,公共性維持の観点から限界があることも明らかにされる.これを踏まえ,日本の実際の都市を例に,新たな運営ならびに運行形態の組み合わせを提案し,その財政的持続可能性を検討する.結果,財政的持続による公共交通利用促進の可能性を得た.
- 卒業論文
- 岡下拓司:アジア大都市における環境配慮型土地利用・交通政策の可能性に関する調査分析
(主査:林良嗣,副査:奥田隆明)
都市の無秩序な開発は環境に配慮した交通政策実施に多大な悪影響を及ぼす.アジア諸国の大都市において,現在まさに広域化の流れの中にあり,環境的持続可能性を向上するためには土地利用の視点からの早急かつ抜本的な対策が必要である.そこで本研究では,バンコク,マニラ,ジャカルタ,ソウル,吊古屋市の都市計画制度・土地利用政策の変遷を比較・整理することにより,今後実施すべき施策を明らかにすることを目的とする.その結果,アジア大都市において実施されている政策の多くは開発抑制力が弱く十分な効果をあげているとはいえない状況であることがわかった.また,日本を含めても公共交通志向の土地利用政策は少なく,アジア諸国の都市における様々な開発抑制手法の検討の余地と必要性が示された.
- 長田基広:LCAを用いた中量旅客輸送システムの環境負荷評価
(主査:加藤博和,副査:井村秀文)
中量旅客輸送システムであるモノレール,HSST(High Speed Surface Transport),AGT(Automated Guideway Transit:案内軌条式鉄道),ガイドウェイバスシステムなど交通システムは,日本はもとより,世界各国で多くの路線が計画・運行されている.本研究では,現在吊古屋周辺で計画・供用されている中量旅客輸送システムを対象にLCA(Life CycleAssessment)の手法を用いて,環境負荷の推計及び評価を行うことを目的とする.
- 高木拓実:都市空間再構築における撤退地域特定のためのGISシステム
(主査:林良嗣,副査:井村秀文)
都市空間利用を再構成するための撤退・再集結地域選定のための理論フレームの検討が行われている.しかし,この理論フレームを実際の都市へ適用するためには大量の空間データ処理や計算ができる機能を備えた支援システムが必要となる.そこで本研究では,大量の空間データ処理機能に加えて,空間的な分析や地図と組み合わせた情報の視覚的な表現を行う機能を持ち合わせているGIS をベースとして,撤退・再集結地域の選定をするためのシステムを開発している.さらに,開発したシステムを実際の都市を対象とした撤退・再集結地域の選定に適用し,その有効性が検証されている.
- 竹下博之:吊古屋ガイドウェイバス開業後3年間の状況分析
(主査:加藤博和,副査:森川高行)
吊古屋ガイドウェイバス志段味線は2001 年3 月の開通以来,需要予測値を下回っていることが懸念されている.本研究では,ガイドウェイバスの現状分析を行い,それを基に利用者増加施策を提案することを目的としている.まず,ガイドウェイバスシステムの特性,運営形態,利用者数の推移,収支構造などからガイドウェイバス志段味線の現状と今後の課題を整理する.また,過大推計となった需要予測について,実績値との比較によりその原因の解明を試みている.そして,以上の分析結果をもとにした利用者増加施策として,専用軌道区間と地上走行区間を一元運営することを提案している.